1.介護予防事業の分類 (1)介護保険認定によるサービス   ・要支援1、2の認定を受けた方が対象   ・指定通所介護事業所(既存のデイサービスなど)で実施 (2)地域支援事業   ・市町村が実施   ・特定高齢者施策   ・一般高齢者施策   ・公民館、体育施設、治療院でも可能 2.介護予防の対象者・内容 (1)対象者    生活不活発病による虚弱高齢者    →介護認定を受けなくて済むようにする    =「未病治」 … 鍼灸マッサージ師の得意分野 (2)内容   @運動機能向上 … 鍼灸マッサージ師関与可能   A栄養改善   B口腔ケア 3.運動機能向上教室の概要 (1)参加人数    8〜15人(ベッドサイドでは1名でも可) (2)担当者    はり師、きゅう師、あん摩マッサージ指圧師、柔道整復師、理学療法士、    作業療法士、健康運動指導士、健康運動実践指導者、保健師、医師 (3)回数    週2回〜月1回(3ヶ月〜6ヶ月)    初回、3ヵ月後、最終回に体力測定 (4)時間    1回90分(ベッドサイドでは5〜10分でも可) (5)スペース    80平方メートル程度(約24畳)    (ベッドサイドでおこなう場合はこの限りではない) 4.介護予防教室の実際1日目 (1)受付 (2)挨拶 (3)今後の予定、本日の流れ説明 (4)介護予防教室参加表記入、回収    *リスク者チェック(高血圧、心臓病など) (5)転倒リスクチェック表記入、説明 (6)介護予防教室内容説明 (7)リスク者確認    *運動が可能かどうかの聞き取り(高血圧、心臓病) (8)経絡ストレッチ (9)体力測定   @握力   A片足開眼立ち5m歩行   Bファンクショナルリーチ   C長座体前屈   D5m歩行   Eタイムアップ&ゴー (10)東洋医学講座 (11)鍼灸マッサージ体験 (12)次回説明 5.介護予防教室の2日目以降 (1)受付 (2)概要説明    *運動の種類、運動強度、リスク管理など (3)経絡ストレッチ (4)運動処方    *チェアーex・フロアーex・バンドexなど (5)経絡ストレッチ (6)東洋医学講座 (7)鍼灸マッサージ体験 6.介護予防教室でのリスク管理 (1)運動能力の個人差を考慮 (2)必要に応じて介助 (3)参加者ごとの苦しさ、顔色の変化をチェック (4)息を吐きながら力を入れる運動方法 (5)異常を感じたらすぐに中止 (6)連続する運動は脈拍数・主観的運動強度を確認 (7)急激に力を入れると筋肉や関節に損傷のリスク (8)応急処置(テーピング・氷など)準備 (9)病院搬送手順の作成 7.転倒のリスク (1)歩行能力の低下 (2)バランス能力の低下 (3)筋力の低下 (4)疾病による転倒リスク (5)服薬による転倒リスク (6)転倒の外的要因 (7)視力・聴力の低下 (8)転倒に対する不安感、それによる日常生活(ADL)の制限 8.運動における留意点 (1)高齢者の運動の3つの柱   @筋力   A柔軟性   Bバランス (2)運動の量   @強度   A時間   B頻度 (3)運動の種類   @無酸素性(アネロビック)運動   A有酸素性(エアロビック)運動 (4)心拍数   *最高心拍数 220−年齢   *目標心拍数   (220−年齢)×0.5=最高心拍数の50% (5)主観的運動強度(RPE)    強度 日本語 英語    20    19 非常にきつい Very very hard    18    17 かなりきつい Very hard    16    15 きつい Hard    14    13 ややきつい Somewhat hard    12    11 楽である Fairly light    10     9 かなり楽である Very light     8     7 非常に楽である Very very light     6 9.体力測定 (1)握力   1)測定目的 上肢の筋力   2)測定内容 @利き手で1回測定する。 A第2指の第2関節が直角になるように、握りの幅を調節する。 B息を吐きながら一杯まで握ってもらう。(整数で記入) C掛け声をかけて握ってもよい。 D握力計を自然にたらしたまま行ない、握力計を振ったりしない。 (2)片足開眼たち   1)測定目的 静的バランス、下肢筋力   2)測定内容 @目を開き、片足で60秒たってもらう。 A片足ずつ、両足を測定する。 B軸足のずれ、挙げている足が床に着いたときには、その時間を計る。 C60秒に達した時には、2回目を行なう。 D2回測定し、大きい値をとる。(小数点第一位まで記入) E片足で立てない場合は0秒、一瞬しか挙げられない場合は1秒、けがや障害で挙げられない場合は空白で記入する。 (3)ファンクショナルリーチ   1)測定目的 動的バランス   2)測定内容 @壁またはホワイトボードに垂直に線を引くかテープをはり始点とする。 A壁またはホワイトボードに横向きに立ち、肩関節を90°まであげる。 B手を握り、MP関節を始点に合わせる。 C体を前屈し、できるだけ遠くで保持できる地点にマークをつける。 D始点から最遠地点までの距離を測る。(小数点第一位まで記入) (4)長座体前屈   1)測定目的 柔軟性   2)測定内容 @壁にお尻から背中までをつけ長座位になり、上肢を前方に上げ、測定器具の基点になる部位を母指と示指の間に合わせる。 A息を吐きながらゆっくりと前に体を倒し、器具を上肢で押す。 B最大屈曲地点を測る。 C2回測定し、平均値を計算する。(小数点第一位まで記入) (5)5m歩行   1)測定目的 歩行能力   2)測定内容 @できるだけ早く歩いてくださいと指示する。 A始点よりやや後から、ゴール地点を通過するまでの時間を計る。 B2回測定し、速い時間を記録する。(小数点第一位まで記入) (6)タイムアップ&ゴー   1)測定目的 歩行能力   2)測定内容 @スタート地点に椅子をおき、3m先にコーンをおく。 A「ヨーイ、ハイ!」の号令で立ちあがり、できるだけ早くコーンを回ってもとの椅子に腰掛けるまでの時間を計る。 B2回測定し、速い時間を記録する。(小数点第一位まで記入) 10.経絡ストレッチ (1)経絡テストと経絡ストレッチ 経絡テストは福岡大学スポーツ科学部の向野義人教授が開発したものです。経絡ストレッチは、経絡テストで発現した、痛み・つっぱり感・違和感などによる動きの制限を引きおこしている経絡を特定し、その経絡部位をストレッチングするものです。 経絡ストレッチは、経絡が走行している部位を単にストレッチングすればよいというものではなく、経絡テストで全身の動きをチェック(図1)して、異常を感じる動きを特定し、異常経絡が走行している部位をストレッチングするものです。 また、経絡ストレッチは、個々の動きの問題点を経絡テストで探り、それに伴って経絡ストレッチングするため個体差を考慮したストレッチングが可能になります。例えば、腰痛でも、体幹の屈曲型の腰痛もあれば、伸展型の腰痛もあるため、それに合わしたストレッチングが可能になります。 経絡ストレッチを実施することで、痛みの部位の改善のみならず動きの改善にもなります。詳細は向野義人編著、朝日山一男・籾山隆裕著「経絡ストレッチと動きづくり」大修館書店を参考にしてください。 (2)経絡と経絡テストとの関連 経絡は病変が出現する部位であり、その病変を治す部位でもあります。手足、頭部、体幹を結ぶ12本の流れは、それぞれ法則性を持ちながら配当されています。経絡は、その経絡の一部に現れた痛みが同経絡上の他の部位においても痛みが出現するという特徴とともに、それぞれの経絡が臓腑に属していることから、臓腑の異常は所属経絡上に痛みや違和感として出現します。そして、その経絡への刺激は、臓腑の病変を治療する役割も担っています。 同経絡上に痛みが出現することで、動きの制限が現れます。ここに一症例をあげてみます。腰痛のある55歳の男性が、体を反る動作で痛みが再現したため、圧痛を診たところ、前脛骨筋に異常が見られました。この男性に、胃経への鍼治療を行なったところ、後屈痛が緩解しました。これは、体幹を反る動作において胃経の伸展障害があるために動きが制限され、腰痛を引き起こしたと考えられます。 このように、体のあらゆる部分に伸展負荷を与え、どの経絡に異常があるのかを判断し、その異常経絡に鍼・灸・マッサージ・ストレッチ等の刺激を与えることで、動きの制限を取り除くことができます。 (3)経絡と動きの関連性 手       足     中心軸  上肢・体幹・下肢の動き 前面 手の太陰肺経 足の太陰脾経 任脈  伸展負荷 手の陽明大腸経 足の陽明胃経 後面 手の少陰心経 足の少陰腎経 督脈  屈曲負荷 手の太陽小腸経 足の太陽膀胱経 側面 手の厥陰心包経 足の厥陰肝経 帯脈  主に側屈負荷 手の少陽三焦経 足の少陽胆経 ※手足同名経の経絡は動きの共通性(同時に伸展される)があります。 経絡テスト、経絡ストレッチを行なう場合、前面、後面、側面で考えてください。それぞれの面を伸展する動き(経絡テスト)で異常を発現する動作がわかれば、伸ばされている面に走行している経絡が異常経絡になります。 (4)経絡ストレッチの特徴・原則・注意事項(「経絡ストレッチと動きづくり」より抜粋)   1)経絡ストレッチの特徴 @簡単な経絡テストで動きの異常がわかり、効率的なストレッチができる。 A個人に合わせたコンディショニングができる。     B疲労や傷害が発生した場合でも、どのような動きに異常があるか発見でき、異常部位をストレッチすることで治療に役立つ。     Cスポーツ種目の違いや個人差による異常が判断でき、個々にあったストレッチができる。     Dフォームのアンバランスのチェックができ、フォームの修正やアンバランスによる負荷の軽減に役立つ。 E軸のぶれが原因になっている身体の異常を見つけ出し、軸づくりを可能にする。     F自覚のない動きの異常や疲労などが分析でき、どの部位にアプローチすればよいかが判断でき、疲労回復やパフォーマンスの向上に役立つ。 G経絡テストによる診断から、即経絡ストレッチの治療に結び付けられる。 H理学テストとの共通点があるため、チーム医療に役立てることができる。   2)経絡ストレッチの原則 @経絡テストで、すべての動きをチェックする。 Aまず、制限の強い経絡をストレッチする。 B上下肢におよぶ異常があるならば、下肢からの治療原則にしたがう。     C体幹の異常も四肢からストレッチするが、効果が出にくい場合は、最後に中心軸をストレッチする(四肢をストレッチすることで中心軸へのアプローチが可能となるが、体幹をストレッチすることで「軸づくり」が確実になる)。     D制限の強い経絡上の経穴、もしくは圧痛点を押してみて動きがよくなれば、そのエリアのストレッチは有効であるとみなす。 E最後に局所のストレッチを選んで行なう。 F経絡ストレッチで効果がなければ、どこに原因があるか精査を行なう。      *体幹、頚部などの後屈で異常がある場合は前面、前屈の場合は後面、右側屈の場合は左側面を制限経絡といい、この部位をストレッチします。   3)経絡ストレッチの注意事項     @すべての動きを経絡テストでチェックする(意外な部位の異常が発見できることもある。上肢の異常は下肢の異常からくる場合がある)。     A制限経絡が見つかったら、できるだけ四肢の抹消のストレッチから行なう。そして最後に体幹を行なう。     B息を吐きながらゆっくりと伸ばし、つっぱり感を感じたところで止める。止めている間はふつうに呼吸を行なう。     Cストレッチの時間は、伸展させた状態でつっぱり感や痛みが消失するか、減弱するまで伸ばすと効果が高い。個人差があるので、その時間はまちまちである。     Dストレッチが終わったら、経絡テストで制限があった姿位でもう一度テストをし、改善されたかどうかを確認する。 E体幹の経絡テストを必ず行なう。     F経絡テストで発現される、制限、痛み、つっぱり感、違和感、だるさの部位がどこであれ、経絡テストで伸展されている側の経絡をストレッチする。たとえば、体幹左側屈で腰部に痛みがあれば、痛みが右であっても左であっても、右外側面の足の少陽胆経をストレッチする。 (5)経絡ストレッチの実際 経絡テストは、図1の手順で行います。図の手順ですべて行うことが基本ですが、頸、上肢、下肢、体幹に分けて行うことも可能です。この経絡テストで異常な動きが見つけられたら図2のストレッチを試みてみましょう。経絡テストで前面と書いてある動きで異常が出た場合は図2の前面と書いてあるグループの経絡ストレッチを行いましょう。同様に経絡テスト後面の異常は、後面の経絡テストを側面の異常は、側面の経絡テストを行ってみましょう。(月刊スポーツメディスン1月号87より抜粋) 図1 経絡テスト施行手順 図2 経絡ストレッチ 11.フロアエクササイズ 実例 (1)四つ這い 腕立て伏せ(上腕二頭筋・三頭筋、大胸筋) (2)四つ這い 片足蹴り(殿筋群、背筋、下腿後面) (3)上体そらし(背筋) (4)お尻浮かし(腹筋、背筋、殿筋群) (5)へそのぞき(腹筋) (6)寝て足踏み(腹筋、腸腰筋、大腿直筋) (7)膝の左右倒し(肩、体幹の柔軟性改善、回旋筋強化) (8)つまさき立ち、かかと立ち(足関節の屈筋群、伸筋群の筋力強化、バランス改善) (9)足踏み(総合的な脚力の強化、バランス改善) (10)膝の曲げ伸ばし(スクワット)(大腿部の屈筋群、伸筋群、殿筋群) (11)足踏みの応用(脚力強化、バランス改善) 12.チェアエクササイズ 実例 (1)上肢 曲げ伸ばし(肩関節の可動域改善) (2)上肢 筋力強化(上腕二頭筋、上腕三頭筋) (3)体幹 腕を前に(腹筋、背筋の強化) (4)体幹 左右のひねり(回旋筋群の強化) (5)下肢 足踏み(大腿部の前面、後面、側面の強化) (6)足関節つまさき立ち・かかと立ち(足関節の屈筋群、伸筋群) (7)足上げ(大腿四頭筋の強化) (8)股関節の外転・内転(殿筋群、大腿筋膜張筋、内転筋) (9)立位 背もたれを握る(握力の強化) (10)立位 片足蹴り(殿筋群、大腿後面、背筋、大腿筋膜張筋) (11)下肢 スクワット(大腿四頭筋、ハムストリングス、殿筋) (12)下肢 つまさき立ち・かかと立ち(足関節の屈筋群、伸筋群) 13.ベッドサイドエクササイズ 実例 (1)下肢の訓練 膝関節伸展のまま(大腿四頭筋の強化) (2)下肢の訓練 膝関節伸展のまま 〜パートナー〜(大腿四頭筋の強化) (3)足関節の底屈・背屈(足関節の屈筋群、伸筋群の強化) (4)足関節の底屈・背屈 〜パートナー〜(足関節の屈筋群、伸筋群の強化) (5)大腿部(マクラを使う)(大腿部の内転筋群の強化) (6)股関節 外転(大腿筋膜張筋、殿筋群の強化) (7)股関節 内転・外転 〜パートナー〜(大腿筋膜張筋、大腿部の内転筋群の強化) (8)へそのぞき(腹筋の強化) (9)膝の左右倒し(回旋筋群の強化) (10)膝の左右倒し 〜パートナー〜(回旋筋群の強化) (11)片足蹴り(大腿後面、殿筋群、背筋の強化) (12)片足蹴り 〜パートナー〜(大腿後面、殿筋群、背筋の強化) (13)スクワット(大腿四頭筋、ハムストリングス、殿筋群強化) (14)つまさき立ち・かかと立ち(足関節の屈筋群、伸筋群の強化) 参考文献・資料 ?「経絡ストレッチと動きづくり」向野義人編著、朝日山一男・籾山隆裕著(大修館書店) ?「月刊スポーツメディスン1月号」 ?図版は「早わかり介護予防」(医道の日本社)より転載 以上